復興支援事業 ふくしまバトン

人を紡ぐ・いのちを紡ぐ

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天野和彦天 野 和 彦

福島県会津若松市出身 1959年4月 生まれ 福島県須賀川市在住
福島大学大学院 地域政策科学研究科修了・福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター特任教授
一般社団法人 ふくしま連携復興センター 代表理事
【勤務先】〒960-1296福島県福島市金谷川1番地
TEL: 024-504-2865 (直通) e-mail
r646@ipc.fukushima-u.ac.jp

■ 略 歴
特別支援学校の教員として15年間障害を持った子どもたちの教育に携わる。1997年大玉村教育委員会に県より派遣社会教育主事として配属。生涯学習総合振興計画の策定など生涯学習の推進と成人式の改革など青年教育を中心に実践する。 ・2001年4月より、県教育庁生涯学習文化グループ に所属して県内の学習網を構築するためのしくみ「県民カレッジ」の立ち上げ準備を3年間行う。・2004年4月より、県男女共生センター。男女共同参画をより一層推進するために実践的活動拠点機能を充実させることが重要ということから、関係機関、団体、個人の県内ネッ トワーク構築を手がける。 ・2006年4月より、2008年10月開催の全国生涯学習フェスティバル(まなびピアふくしま2008)を担当、その後も関連事業をとおして全県的な生涯学習の推進を図る。
■ 主な活動歴
日本災害復興学会、日本社会教育学会、日本教育学会、日本公民館学会 ・委員等 避難所における良好な生活環境の確保に関する検討会委員(内閣府)2012 「東日本大震災アーカイブ」利活用WG委員(総務省)2012 避難所における良好な生活環境の確保に関する検討会「福祉避難所」WG委員(内閣府)2015

リレーとバトン

バトンという言葉を聞くと思い出すのが、私はいわゆる特別支援学校、障害児教育のはじまりは教師だったわけですけど、あの時に「競争がない運動会」をつくろうという取り組みをしたんです。
反対もありました。人は競争をして生きるものだって、〝競争原理〟という言葉があるって。原理ということは…わたしたちのDNA の中に組み込まれてるという意味…本当にそうなのでしょうか。
そこで色々歴史を調べてみると、一個の動物としたら人は本当に弱い動物。たとえば象と力を比べても、どんなに強い力を持った人でも象にはかなわないですよね。あるいは走る力にしたって、金メダリストとチーター(120キロぐらいで走る)もね、走る力も劣る。
一個の動物としたらそんなに弱い人間が、なぜここまでになることができたのか。自然に立ち向かおうとする力を得ることができたのか。
それは「協力と分配」ということを人間は知ったからだって。

ピグミー(コンゴ民主共和国に住むムブティ族)という種族があります。彼らは今でも原始的な生活をしていて、狩りの生活をしていて、そして獣を取ってきてみんなで食べてた。
集団で狩りに言って、ある若者がイノシシを仕留めて村に持ち帰ってきたわけですね。どうするのかなと思ってそこに観察に入っていた社会学者はずっと見ていたならば、端っこから同じぐらいの量で肉を切り取って、子供でも大人でもずっと順番に分けて行って、そしてそれでも肉が余っているとまた端っこから切って配っていって、肉がなくなるまでそうやって繰り返すと。そこで村の長みたいな人に社会学者が質問したんですね、「あれは俺が仕留めたんだから、俺はサーロインとかさ、ヒレのところが欲しいよ」って言う人はいないのかと聞いたら、いないって。「そういえば過去にそういうのが一人いた」。その人はどうしてました?って聞いたら、集団から排除された、つまり村から出て行きなさいって言われた。それはなぜですかって聞いたら、なぜそんな質問を?という顔をして、「獲物を取れる若いうちがいいよ。でも取れなくなったらどうしますか」と言われた。それを今日の制度で我々は「福祉」って呼んでますよね。
あるいはその狩りの方法を伝えていく、洞窟とかの壁画なんかもそうだよね、あれを今日の言葉で言うと「教育」って呼ぶわけでしょ。私たちの先輩たちが学んだことを次の世代に受け継いでいく。まさにそのバトンですよね。だから競争原理は、原理じゃないんだって、本当にそれが原理だったらば、人はここまでなることはできなかった、つまり協力と分配、その精神が元々人にはあった。

運動会バトン

ある時に子供たちが「あー、運動会だから嫌だな」って言うので、なんで嫌なの?て聞いたら「遅いから」って言った。遅いとダメなの?って聞いたら、「ダメに決まってんじゃん、遅いのはダメなんだよ」って、ああそう、何が一番嫌なの?「だってリレーの選手には絶対なれっこないし」って。
その時私が居たのは、肢体不自由の養護学校でした。体が不自由な子どもたちの学校ですね。ある時その子供たちにアンケートとったんです。あなたの好きな教科は何ですか?というのがその設問の中に一つありました。
本当に僕はびっくりしたんだけど、ダントツで一位だったのは体育です。きっとバイアスがあったんだろうね、体が不自由なのだから体育なんか好きであるわけがないって勝手に思い込んでいた。ああそうか、体が動かして気持ちがいいって思うのは、障がいがあるとか無いとかは関係ないんだなって。
だとしたら運動会は競うんじゃなくて、体動かすのがこんなに気持ちいいんだって知ることが一番大事じゃないかと、そして提案をしました、全員でリレーをやろうって。
「えっ、リレーですか?」 「リレーって速さは関係あるの?」「関係ないよ」。
リレーとはそもそも何か、リレーション(relation)だよね。リレーションとはつなぐってことだよね。何で繋ぐのか、バトンですか?。そう、形としてはバトンだ、でもバトンをバトンとして渡すんじゃなくて、バトンに何を込めて渡していくのか。気持ちですか心ですか?そうだよね。それを乗せて次の人に「頼むよ」って言って渡していく、それがバトンなんだよね。

そして全員リレーが始まりました。100人リレーって言ったけども、始まりは肢体不自由の学校だから、スタートラインにマットが敷いてあって、そこは寝たきりの状態の子供たちがいて、その子たちが寝ている上にずっと紐が張られているんですよ。そこに鈴があって、それを先生たちがその子供たちの動かない手を取って次の人にその鈴を渡していく、その鈴がまた次にまた次にと受け渡されて。
その次は寝返りができる人たちのグループ。今度はそこで初めてその鈴をですね、バトンを持って寝返りをして次の人に、また次の人にと渡す。
バトンは次には四つ這いができる子供たちのグループ、車椅子の人たちのグループ、そこからさらに松葉杖の子供たちのところ行って、最後は独歩って言って足を引きずったりするかもしれないけど自分の力で歩いたり走れたりするグループへと、全員がそのリレーに参加した。
リレーは速さなんかじゃない、リレーションなんだってことを君たちのこの「おかやまバトン」「ふくしまバトン」の取り組みやこれまでの説明を受けていた時に「そうか、バトンか」と思い出しました。

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